平成13年7月例会 講演会要旨

No.005 地球温暖化防止と木材利用

長谷川 一樹(森林部門) 2001.12.11
私は1998年度技術士第二次試験に合格しました。
前年の1997年12月に地球温暖化防止京都会議(気象変動枠組条約締約国会議,COP3)が開催され京都議定書が採択されました。
それまで森林と温暖化防止との関わり、木材の役割等について実務者レベルの会議の中で議論されていることを知りませんでした。
京都会議以降、受験資料収集のなかで、森林・林業が地球温暖化防止の重要な鍵であることを知り、技術士の解答論文の中に採り入れ、今日に至っております。
大気中では、化石燃料等の利用から排出される炭酸ガス,メタンガス等の濃度が高まり、温室効果による地球温暖化が進んでいる。
このため、1997年12月京都において地球温暖化防止のための国際的な取り組み方向が示された。
温室効果ガスを排出する国ごとに排出削減目標が定められ、森林・林業・木材産業においては持続可能な森林経営の推進や再生可能エネルギーの利用の増進が削減に向けての方向と位置づけられた。
樹木は、太陽光をエネルギーとして光合成を行い、温室効果ガスの70%を占める炭酸ガスを体内に取り込み、樹木を形成する有機炭素化合物として炭素を固定し、酸素を空中へ放出する。特に森林は樹木が立体的に配置され、植物の中で最も有効的なものである。
6H2O+6CO2=C6H12O6+6O2
森林の炭素の吸収機能は、若い成熟期に高い。ピーク林令は80年くらいである。
また森林の公益的機能からみれば、総合的な機能が効果的に発揮される時期が50年から80年とされている。したがってこの時期に伐採するのが効果的である。
炭素の貯留機能は樹齢が高いほど大きい。
木材製品は、炭素を貯留していること、他の金属製品等に比し、製造時のエネルギー消費が少ないことなどから、固定された炭素を長く貯留するための燃焼以外の利用、特に用途が幅広い、土木的木材利用を推進する必要がある。
木材利用の面からは、製材端材や間伐材等未利用の木質資源を可能な限りエネルギー源として活用したり、炭素貯留物として長期に保存できる公共木造施設や一般家屋への利用を推進する必要がある。
木材は長所も短所もたくさんある。その中で木材腐朽は長所でもあり、短所でもある。腐朽によって排出される二酸化炭素を少しでも永く木材中に留めるために腐朽の防止を研究しています。
木材の腐朽は木材腐朽菌の繁殖によって進みます。
木材腐朽菌は木材含水率20~150%、温度0~50℃で繁殖します。
木材には腐朽菌の繁殖し易い部位があります。
①木材になって間もない栄養に富んだ辺材部 ②早春から夏にかけて成長した柔らかく水分を含みやすい春材部 ③水分の出入りの激しい切り口(木口という)等である。
木材防腐はこれらの部位に①腐朽菌が入り難くする ②菌が入っても繁殖し難くする ③菌を殺す等の対応をすることである。
最近までは薬品による木材防腐が主流であったが薬品は自然界への影響が懸念されるし、環境への負荷が大きい。
そこで古来からの日本の風土にあった先人の知恵的な例を調べたところ、京都等の寺社で見られる「銅製品」、伝統的な木橋の擬法珠等の「青銅」などに効果が有ることがわかった。
また、西洋では古くから殺菌効果の高い「銀」「銅」が食器やコインに使われてきたことから「銅」の殺菌効果を調べている。
いまだ実験中ではあるが効果はあると認められる。
寒天培地に1円、5円、10円、100円、稲穂の100円、穴あき大判50円を置き、カビを全面に塗布したところ、10円(青銅)と稲穂の100円(銀)の周囲には菌が寄りつかない。5円(黄銅)及び100円(白銅)には直接触れない程度まで接近し、1円(アルミ)及び大判50円(ニッケル)には菌が覆い被さっていた。
このように銅及び銅製品には殺菌効果があり、銀以外の金属には効果がないことが判った。特に鉄は錆びると腐朽を促進するような例(伊勢神宮の宇治橋)がみられ、木材と最も相性が悪いものと思っている。
最も相性がいいのは純銅と青銅(銅と錫の合金)であり、古い建造物に最もたくさん使われている。
最近では銅の錆である緑青の毒は自然に人体に入った場合は害が無く、むしろ人体に必要な微量元素として扱われている。(銅鍋、銅食器等)
土木的利用としての木材防腐工法は、①菌の呼吸を止める水中及び完全土中使用 ②水分の出入りの激しい木口を少なくする縦使用 ③水分の侵入を防ぐ柿渋等天然塗料の塗布 ④鉄製のボルト等を使用しない木組による結合等を考えている。
未だ研究中ながらこれらを実践検証したいと思っている。

(注) 本稿は2001年 7月度岐阜県技術士会例会講演の要旨を講演者の長谷川先生にまとめていただいたものです。